岩手県南部は、文部科学省の空中測定でも濃厚汚染が生じていることが判明しているが、岩手大学の作成した空間線量率マップは汚染の程度を詳しく示してくれる。

そして、岩手大学は、濃厚沈着が生じた時期は2011/3/20としている。
岩手県南部には、福島第一原発からのプルームが2011/3/13午前0時過ぎと3/20の夕刻に襲来している。3/13午前0時過ぎのプルームは、女川原発MPの測定値を20μSv/h近くまで押し上げた。



気象研究所のシミュレーションでは岩手県の一部しか対象になっておらず、プルームの動きがよく分からないが、3/20のプルームは山形県、秋田県から入っている。次は、山形市の空間線量率の推移。2011/3/16と3/20にピークをつけている。



2011/3/20には、山形市を濃厚なプルームが急襲した。3/16よりも短い時間で空間線量率が0.04から0.13まで上がっている。この測定値自体控えになっている可能性があるから、実際には3/20夕刻のプルームの濃度は相当高かったのだろう。

Wikipediaによると、「3号機では19日、仮設電源をつないで圧力容器周辺の温度を測定したところ、通常運転時よりやや高い380 - 390度であることが分かった。19日午後、圧力容器への注水量を2.2倍に増やしたところ、温度は下がったが、20日午前に原子炉格納容器の圧力が1.6気圧から3.4気圧に上昇した。このため、東京電力は配管の弁を開け、放射性物質を含む内部の蒸気を外に放出して圧力を下げることを検討したが、その後、容器内の圧力が安定したため、減圧操作を当面見合わせることとした」とある。ベントをしたのかどうかはっきりしないが、圧力が下がったということは、いずれにせよ、中の気体が外に漏れたということだ。
この記述からすると、3/20午後に山形や岩手を襲ったプルームは、MOX燃料を使用していた3号機が主たる起源だと推定される。
米国が福島第一原発事故直後に東日本各地で土壌を採取し、分析した結果が公表されている。その内容は、「米国による土壌調査結果から」に書いたが、山形県下のGross Alphaの値が相対的に高い。Gross Betaも高いのだが、後者は他の地点との比較ではそれほど際立っていない。

Gross Alphaの分布
A:0.00001uCi/g以上
B:0.000007〜0.00001

2011/3/20は、福島第一原発周辺の風向きがめまぐるしく変わり、午後1時には北西の方向に向いている。

山形県に降下したアルファ線源、ベータ線源の構成がどうなっているのかはわからない。米国調査から個別の核種を含めて並べてみてもGrossの値が高いだけで個別のどの核種が寄与しているのは分からない。ただ、日本海側の鶴岡市でGross Alpha、Gross Betaが高かったのは、私には驚きだ。

岩手に戻ると、岩手県南部では、2011/3/20の17時台から3時間程度、時間当たり1ミリ程度の降雨があった。風は南の風。山形県を回って岩手県に入ったプルームは、ここで降雨にあい、濃厚な湿式沈着が生じたと見られる。
そして米国の土壌調査のサンプルに岩手県下で採取されたものがなく、日本の機関による精密な核種分析の結果も見当たらないからあくまでも推定にとどまるが、周辺都市のデータから判断すれば、山形県に続いて岩手県南部には、ベータ線核種やアルファ線核種が相対的に濃く降下しているのではないかと懸念を強めている。
福島第一原発事故直後に比べ、2年を経過した現時点では、ストロンチウム89のようにすでに検出されなくなっている核種も少なくないだろう。だが、もし、この降下したアルファ線源、ベータ線源の放射性物質を吸気や食品を通して体内に取り込んでいたら、内部被曝は大きくなり、健康障害につながることは疑いがない。