放射能を出すもの自体が長期に体内に残存する内部被曝には注意しても、しすぎることはない: ずくなしの冷や水

2012年10月29日

放射能を出すもの自体が長期に体内に残存する内部被曝には注意しても、しすぎることはない

月刊誌「食品と暮らしの安全」2012年9月1日発行 No.281に野村大成元大阪大学教授のインタビューが載っている。以下は、同誌のサイトに掲載された記事から私が重要と考える野村大成氏の発言を抜き出したもの。

原子力の安全神話?のもとに、国は、工、医ともに安全性の教育、研究の場をなくしたわけです。目先の利益優先に終始し、安全性の基本理念がなくなっていたところに、今回の事故が起きたのです。あまりの状況を見かねて、共同通信社のベテラン記者に、これまでの経験から最低限の常識を書いたメモを送ったら、そのまま配信されたのが昨年3月22日です。

取材もいっぱい来ました。大手のテレビ、新聞は「安全と言ってほしい」と言うので、取材は拒否しました。週刊誌はまだマシでした。過剰に反応しすぎたとも思えない。こういうことは過剰に反応してトントンです。

除染することの怖さをよくわかっていないのです。除染のためには誰かが汚染地に入らなければなりません。その作業者はどんな格好をしていますか? 除染すれば、その作業者が被曝することは明らかで、膨大な数の被曝者を出すことになります。汚染した今となっては、いかに放射能を拡散させないかが重要です。

1993年にソ連が原子力潜水艦の放射性廃棄物を日本海に投棄したとき、 日本政府は国際問題だと言って、猛烈に非難しました。福島の海底土では、30q圏外でも8000ベクレル/sを超える放射性セシウムが何度も検出されているのに、自分のところが放出したら「希釈されて安全になるから、どんどん食べてください」と、政府、メディアは宣伝しました。国内のみならず、外国に対しても「日本の農産物は安全です」とやりましたから、これで日本人の良心は完膚なきまで、国際的に否定されたのです。

(野村大成氏が30年以上前に発表し、国際的に反響を呼んだ「大阪レポート」について)
ウレタン(カルバミン酸エチル)をオスのマウスに注射し、しばらくしてメスと交配させると、ほとんど元気で生まれますが、 その子たち4千匹余にガンが出るかどうかを見ていくと、有意差が出てきましたので、1975年1月に「キャンサー・リサーチ」に発表しました。

ウレタンが、非経口医薬品の溶剤として大量に使用されていたのです。その後、遺伝的な影響を証明するのには確実にDNAをやっつけるものがいいので、ウレタンに代わって放射線を使いました。放射線は瞬間的に作用するので、オスに一発当てて、しばらくしてから正常なメスと交配させ、受精率や流産、奇形を見て、それから、いつになったらガンが発生し、 その頻度がどのくらいかと。

遺伝学者は遺伝子の変化を調べますから、 生まれた直後の形態、機能の違いを調べるところまででした。突然変異については、膨大なデータがありましたが、人類によく見られる疾病(ガン、形態異常、生活習慣病等)はどうなのかは誰も調べていませんでした。私は外科医でしたから、すべての疾病に対し、先の世代がどうなるか臨床のかたわら、我慢してやっていました。

1970年代までは、ガンが出るか出ないかしか実験しなかったのですが、 発ガン物質を1000分の1の低量まで投与量を変えて追いかけると、きれいな線になりました。私の1975年10月のキャンサー・リサーチの論文は、世界で初めて「化学物質で用量効果関係」を描いたもののようです。

1978年にイタリアのペルージアで開かれた国際学会で発表すると、有名な遺伝学者がすぐに奇形で追試確認をしてくださったので、ガンも含めて「ネイチャー」にまとめの論文を出しました。ヨーロッパでは、日本と違って遺伝に関して非常にセンシティブです。 何か悪いことをすると三代たたるという考え方があり、だから悪いことをしない方がいいというのです。最初の論文では、親に放射線を当てて、子どもから孫まで影響したのを出したので、非常に反応が強かったですね。

ネイチャーの論文審査では何も指摘されず、関連論文が4本載りました。その中で大事なことがあります。放射線を一度浴びただけで、子や孫にガンが発生しますが、突然変異に比べたら100倍以上高く増加したのです。 それでも、せいぜい10〜20匹に1個ガンが増える程度でした。ところが、生まれた子どもにも微量のウレタンを打つと、子どもはガンだらけになりました。2回目に有害物質をかけると、影響が数倍に上がりました。

マウスの実験はきれいな状態で行いますが、人間は違います。放射線を浴びた後、親も子どもも、発ガン物質や放射能を含む食べ物も食べる可能性があります。そうすると、ガンにかかりやすいということです

ヒトでは、イギリスの核燃料再処理工場セラフィールドの例があります。
1990年に、ここの男性従業員の子どもに白血病のリスクが7〜8倍高いという論文を サザンプトン大学のガードナー教授が出したのです。これは、まさに私のマウス実験と同じことが、ヒトで調査された結果で、精子被曝が子どもの白血病の原因として大騒ぎになり、すぐに被害者による裁判が起きました。裁判の結論は「統計学的には有意差が出たけど、わずか4例のことなので、すぐに人間には当てはめられない」ということでした。ところが、珍しく裁判長のコメントが付け加えられたのです。「子孫への影響をみるこの研究は極めて大事であるから、今後、世界中で研究が推進されることを望む」と。

チェルノブイリの汚染地は、事故後10年近くたち、国際機関が調査をやめ、国際援助もなくなったころ、ユネスコと現地の要請で、文部省(旧科技庁は関与せず)と、民間助成金の支援を受け、生態系への汚染と遺伝的影響を調査しました。地上の放射能は減少しても、動植物には、恐れていた強度の汚染、生物濃縮が起こっていることをいち早く証明しました。 事故直後に、放射性ヨウ素で汚染された牧草を食べた乳牛のミルクを飲んだ子どもの甲状腺に、放射性ヨウ素が大量蓄積し、それが原因で甲状腺ガンが高発していました。 放射性セシウム等の内部被曝による影響については、ガンが発生するまでの年数が足りないのだと思いますが、徐々に増加しているとの報告があります

遺伝的影響に関しては、英国のグループが、汚染地域の子どもで、放射線等で変化の起きやすい配列のDNAに突然変異が増加していると1996年に報告しました。汚染を除去した作業者の子どもでは、突然変異の増加が疑問視されていたので、マウスで確実に検出できている突然変異を、除染作業者の子どもについて調査しました。 陽性にはなりませんでしたが、これは、被曝量が50ミリシーベルト以下と少なかったからだと思います。

ところが、ベラルーシとイタリアを行き来しているツバメの子どもを調べた報告では、反復配列したDNAの突然変異が3.6倍も増加し、有意差が出ています。 ウクライナのツバメとの比較でも2倍くらい増加しています。
これからも調査は必要ですが、放射能が大量に放出されたのですから、ヒトに異常が出ることは確実です。

私が実験したのは瞬間の外部被曝で、外部被曝でもじわじわ被曝すると、ガンと奇形の頻度は落ちます。だから、環境から受ける慢性被曝のときは、ガンと奇形が少し出にくい可能性はあります。しかし、食べると放射能が体内に留まって内部被曝になるので、様相は一変すると思います。この内部被曝の実験はほとんどないので、チェルノブイリで影響を調べることが大きな課題なのです。福島は、チェルノブイリのミニコピーです。

1978年に最初の論文を発表したとき、 なぜガンが、子どもに、通常の突然変異に比べて100倍以上もの高頻度に発生したのか、二つの可能性を書きました。一つは、たくさんのガン遺伝子があり、そのどれかに変異が起こった可能性です。例えば、マウス肺腫瘍発生に関与する遺伝子は、免疫関係だけでも当時200以上の遺伝子がわかっており、「それにヒットしたのなら、200倍の高い頻度で出てもおかしくない。1000倍出てもおかしくない。それで十分説明ができる」と多くの先生が支持してくれました。

しかし、ガンになり易さの遺伝であること、しかも、親マウスが被曝すると、子どもに何百回もの細胞分裂を経ても伝わる変化があり、そのマウスが生後に環境の有害物質に曝露すると、ガンが高発、促進されることがわかっていました。

この論文は、1990年代後半になって、生殖細胞で遺伝的不安定性を示した最初の論文と言われたように、とても、突然変異で説明できるものではありません。そこで、もう一つの原因として、通常の遺伝子の機能にわずかな変化が起き、その蓄積でガンの頻度が上がった、と書きました。

健康状態が一番影響を受けるのは、免疫関係の遺伝子です。遺伝子は、「有害」でも「生体の正常機能に関与しているもの」でもよく、 その発現のわずかの変化が蓄積し、遺伝したので、何十代にわたってガンが発生しやすくなった、と考えたわけです。放射線に一度、被曝しただけで、何代にもわたり、肺腫瘍、肝腫瘍、白血病等にかかりやすいマウスになりました

このことを証明するため、遺伝子の働きと「発現」を調べています。親に放射線を照射し、子どもが生まれて、その子にガンが出た臓器を調べると、非照射対照群のマウスに較べ、ガン組織で遺伝子の発現が数倍、増減していました。遺伝子発現を分析してみると、ガン組織だけでなく、その臓器の正常部分の組織にも多かれ少なかれ、同じような変化がすでに存在していました。子どもの臓器でそういう変化が起きていたので、ガンにかかりやすくなっている、と説明したのが、2000年から2003年ごろのレポートです。

放射線障害で最も恐れるのは、それが一瞬の被曝であっても、 細胞、遺伝子などに起きた傷が残り、将来のガンや遺伝的影響に結び付くことなのです。ましてや、内部被曝の場合、放射能を出すもの自体が、長期に体内に残存するのですから、 注意しても、しすぎることはありません。
posted by ZUKUNASHI at 12:14| Comment(0) | 原発事故健康被害
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