株価収益率(= 株価 ÷ 一株当たり当期純利益、PER)は、株式投資の最も基本的な物差しの一つ。通常14倍から18倍程度が普通だが、成長性のある企業ではPER20倍以上、つまり1年1株当たりの利益の20年分以上に相当する株価水準まで買われることもある。
ところが今年の初夏からPERが13倍を超えていないということは、利益予想はこれまでと変わらないが株価が一時的に下落してPERが下がったか、業績悪化が見込まれ、予想利益が低下するとのコンセンサスができて株価がそれを反映しているかのどちらかだということになる。

株価水準は、この春を過ぎたころから、前年並みの水準で推移しており、それでもなおPERが低下しているところを見ると、年度当初の期末業績予想は、例によって楽観的に見積もられていたようだ。グラフは、上と同じくGC-OPTICASTのサイトから拝借。

中国の景気減速、欧米の景気悪化、円高定着、それに国内の消費低迷などから、企業利益が伸びるとは想定しがたいというのが常識的なところなのだろう。そして、業績予想の下方修正が相次ぐところとなっているから、PERはこの先上がってくるかもしれない。
私は中期的にも厳しい見方をしており、個別企業を見た場合に、その企業がこの先、10年、15年存続可能なのか、疑問を感じざるを得ないものも少なくないと思う。東京電力はその典型例だが、それに限ったことではない。
次は、東証1部の乳業メーカーのデータを参考とした投資尺度の仮設例だ。配当利回り2.3%なら税金を引いても、他の金融商品の10倍近い収益性になる。
株価 1,300円
1株配当 30円
配当利回り 2.3%
PER 9.63倍
PBR 0.87倍
EPS 135円
BPS 1,500円
株価収益率(PER)が10倍弱、株価純資産倍率(PBR)0.87倍だから、企業が解散しても1株当たり解散価値は株価を上回る。
乳業会社の中には、実績PERが14.52倍、予想PERが8.8倍というところもある。それでも、なぜか買いが殺到しない。
私は、福島第一原発による健康被害が深刻化すれば、市乳、牛乳乳製品のマーケットは縮小していくだろうし、日本の乳製品メーカーの業績は低下し、中には立ち行かない企業も出てくるのではないかと思う。
私の知る限りそんなふうに考えている人はごく少ないと思うが、データから見ると、意外にも市場ではそんな慎重派が多数派なのだ。
そういう慎重派が、この先日本では健康被害が深刻化し、経済社会の根幹が揺すぶられると考えているかどうかは分からない。
ただ、これだけ経済事情が変動していては、将来の売上や利益を見通すことは困難だ。そもそも14年先にその企業が今と同じような企業規模を維持しているかさえおぼつかない。14年分の利益相当額の株価水準さえ相当なリスクだ。
解散価値に着目するとしても、需給が崩れ、需要を失った企業から敗退、退出していくわけだから、プラントの価値などスクラップ価格にしかならない。残った不動産も放射能汚染地域なら需要は先細りだ。
政府も経済界も、福島第一原発第4号機燃料プールの問題は心配しておらず、原発稼動再開に狂奔している。私から見れば再稼動する原発からの放射能放出の危険性も大きな企業リスクだと思っているが、実際の投資行動ではそこまで勘案していたら身動きが取れないということだろう。
だが、多くの投資家が、上に書いたようなリスクが潜在的にあると認識しているとすれば、いざリスクが顕在化したときの反応は早く、かつ激しくなるだろう。
2011/3/15の相場変動を振り返ると、一日、相場を見ていられない人がポジションを持つのは、難しい時期にあると思う。