この指数は、放射能による健康被害の状況を知るために、究極の健康被害である死亡増と出生減の変動状況を見るものです。本来、各種の疾病について発生状況の変化を見るべきですが、統計の公表まで1年以上の時間がかかること、福島県などについて疾病データの収集を行わない方針が示されていること、各種疾病や死亡原因については統計上の操作が容易であることから、極力客観的な、意図的な操作が入り込まない指標で健康被害の状況を見ようとしています。
指数の計算方法は、福島第一原発事故発生前と発生後の違いが分かり、かつ発生後の時間経過に伴う変化が把握できるよう、計算対象期間を設定しています。
今回は、2010年の4月から8月までの5ヶ月、2011年の4〜8の5ヶ月、2012年の4〜8の5ヶ月を対象期間とし、出生数、死亡数それぞれの合計値の前年比変化率を算出し、死亡数の変化率から出生数の変化率を差し引いた値を人口自然増変化指数としています。
この指数の意味するところは、値が高ければ高いほど、死亡数の増加率が大きいか、あるいは出生数の減少率が大きいことを意味し、たとえば死亡数が5%増、出生数が5%減なら人口自然増変化指数は0.1となります。
今回、指数がもっとも良かった東京1区のこの期間の出生数と死亡数の変化は次のグラフのとおりです。東京1区は、千代田区、港区、新宿区が含まれ、人口約58万人。日本で最も都市的な地域ですが、この地域も放射能の汚染からまぬかれることはできませんでした。
数値の変化を簡単に見てみると、4〜8月の死亡数は、2011年は2010年とほぼ同水準で推移し、2012年は前2年より少なめで推移しています。
出生数は、2011年は2010年より少なめで推移しましたが、2012年は前2年を大きく上回る水準で推移しており、特に8月は異例の増加を示しています。2012/8の出生数は、千代田区 42人(前月45人)、港区 265人(前月204人)、新宿区 240人(前月183人)と港区、新宿区がともに60人近い増加です。原因は分かりません。
各年のこの5ヶ月の出生数の合計は、2072、2006、2247。死亡数は、1743、1761、1701となっており、2011年と2012年の前年同期比は、出生が0.97、1.12、死亡が1.01、0.97となり、2011年に比した2012年の変化率で計算した人口自然増変化指数は、0.97−1.12=-0.15となります。
2 東日本の小選挙区別死亡数の変化状況
上に書いた計算方法で、東日本の小選挙区別の2011年と2012年の前年同期比死亡数変化率を計算し、グラフに示すと次のようになります。ここで宮城県は、地震津波による死亡数の把握に時間を要し、2011年4〜8月の死亡数が大きくなっているので除外し、福島1区と福島5区も事故後の人口流出・移動が大きくなっていることから除外しました。
次のグラフで青い点が2011年4〜8月の死亡数の前年同期比、赤い点が2012年4〜8月の死亡数の前年同期比です。縦軸には、秋田、山形、福島(2〜4区)、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、静岡、長野、新潟の順に、選挙区番号の小さい順に並んでいます。グラフ作成の都合で県ごとの区切りに空白を入れ、目盛二つに一つのラベル表示となっています。

上のグラフから、まず青い点で表示される2011年4〜8月の死亡数の前年同期比上位31を取り出すと以下のとおりです。
1 神奈川16 厚木市 _ 1.17
2 埼玉7 川越市 _ 1.13
3 静岡7 西区 _ 1.12
4 茨城3 取手市 _ 1.11
5 神奈川13 大和市 _ 1.11
6 埼玉4 新座市 _ 1.10
7 福島3 須賀川市 _ 1.10
8 群馬1 前橋市 _ 1.10
9 東京23 町田市 _ 1.09
10 静岡1 葵区 _ 1.09
11 福島2 郡山市 _ 1.09
12 栃木3 那須塩原市 _ 1.09
13 神奈川5 戸塚区 _ 1.09
14 埼玉3 越谷市 _ 1.09
15 栃木2 鹿沼市 _ 1.08
16 山形2 米沢市 _ 1.08
17 神奈川8 青葉区 _ 1.08
18 神奈川12 藤沢市 _ 1.07
19 神奈川14 相模原市 _ 1.07
20 東京5 目黒区 _ 1.07
21 栃木5 足利市 _ 1.07
22 栃木1 宇都宮市 _ 1.07
23 千葉1 中央区 _ 1.07
24 千葉8 柏市 _ 1.07
25 埼玉2 川口市 _ 1.07
26 埼玉11 深谷市 _ 1.07
27 神奈川15 平塚市 _ 1.07
28 千葉2 八千代市 _ 1.07
29 山形3 鶴岡市 _ 1.07
30 神奈川1 磯子区 _ 1.07
31 山梨3 甲斐市 _ 1.06
神奈川の8つの小選挙区がランクインで、8/18。次いで埼玉が5で5/15、栃木が4で4/5、千葉が3で3/13、東京は2で2/25、茨城は1小選挙区のみで1/7となっています。神奈川で死亡数の伸びが大きい小選挙区が多いのは、今ひとつ原因が分かりませんが、私は初期のプルーム襲来と水道水が原因かと見ています。
茨城県では1小選挙区しか上がってきていないのが意外ですが、茨城県は初期のプルームの通り道となっており、2011/3中に死亡数が急増しました。そのため、4〜8月の死亡数は前年同期比では大きくならなかったことによるものと見ています。
栃木県は、3/15にまず県東部が強力なプルームの来襲を受け、その日の午後には北部が北からのプルームの来襲を受けています。このため初期被曝は大きいものと見られますが、死亡者は茨城県よりも遅れたと見るべきなのでしょう。
福島県については、2区、3区、4区のみ集計しており、ここでは中通の南部に位置する2区、3区がランクインです。会津地方の4区については、1.05でランク外ですが、2012年は1.03で上位に入りました。
次に赤い点で表示される2012年4〜8月の死亡数の前年同期比上位31を取り出すと以下のとおりです。上のグラフでも明らかなとおり、2011年4〜8月の死亡数の伸びが大きいと、翌年2012年4〜8月の死亡数の前年同期比は低くなります。
1 神奈川7 港北区 _ 1.11
2 新潟4 三条市 _ 1.08
3 東京19 西東京市 _ 1.07
4 埼玉10 坂戸市 _ 1.07
5 千葉4 船橋市 _ 1.07
6 東京10 豊島区 _ 1.06
7 東京8 杉並区 _ 1.06
8 埼玉5 北区 _ 1.06
9 東京22 調布市 _ 1.06
10 栃木1 宇都宮市 _ 1.06
11 千葉13 鎌ケ谷市 _ 1.06
12 新潟6 上越市 _ 1.05
13 新潟1 中央区 _ 1.05
14 茨城4 ひたちなか市 _ 1.05
15 神奈川14 相模原市 _ 1.05
16 静岡8 中区 _ 1.04
17 山梨1 甲府市 _ 1.04
18 埼玉8 所沢市 _ 1.04
19 静岡2 藤枝市 _ 1.04
20 東京21 日野市 _ 1.04
21 埼玉1 見沼区 _ 1.04
22 東京12 北区 _ 1.04
23 静岡3 磐田市 _ 1.04
24 千葉7 流山市 _ 1.04
25 埼玉15 南区 _ 1.03
26 福島4 会津若松市 _ 1.03
27 神奈川17 小田原市 _ 1.03
28 東京25 青梅市 _ 1.03
29 東京15 江東区 _ 1.03
30 新潟2 柏崎市 _ 1.03
31 埼玉2 川口市 _ 1.03
東京が8つで最多となりました。8/25です。次いで埼玉の6で6/15、神奈川、千葉の各3。ここで注目されるのは、栃木1と埼玉2が2年連続で上位にランクインしていることです。埼玉2区は川口市ですが、2011/10/11に鳩ケ谷市を編入合併しており、この間の数値調整のミスかと思いましたが、間違いないことを確認しました。
福島4区がこちらでランクインです。会津地方は、福島県内の他の地域に比べて人口流出が少なく、従来の居住地にとどまっている方が多いようです。ですが、場所によって汚染は強いものがあり、これが時間の経過とともに死亡数の増として発現している可能性があります。前年の1.05に比べれば1.03と伸び率は低下していますが、1年当たり死亡数5%増、3%増と続くと2年前に比べて死亡数は8%以上増えていることになりますから、この先も毎年死亡数の伸び率が1以上になると、これは大変な事態です。
死亡数の変化については、次のことが言えると考えます。
@ 2011年4〜8月の死亡数の伸びは、事故直後のプルームの襲来による呼吸による内部被爆による影響が大きく、濃厚なプルームが襲来したところほど、早い段階で死亡者が増えている。
A 事故後早い段階での死亡者は、高齢、持病などにより免疫力の低下した方が多かったと見られ、死亡者の急増の後はいったん落ち着く傾向がある。
B 事故直後のプルームの襲来を受けても、比較的濃度が低かったと見られる地域では、時間をかけて死亡数が増加する傾向がある。東京都や埼玉県の一部は、その傾向が現れている可能性がある。
C 放射性物質の沈着量の多い地域は、その多くが降雨による湿式沈着であり、当初の呼吸による内部被曝は相対的に少なくとも、年月の経過とともに内外の被曝が増えることは避けられず、死亡数の漸増につながる恐れがある。千葉4、千葉13、千葉7、茨城4、福島4、東京15などがそれに該当する可能性があるのではないか。
上の私の考察からすれば、今、身の回りで顕著な異変が起きていなくとも、時間の経過とともに異変が発生しうるし、読者からのコメントなどで私の知り得た限りでも、死亡に至らない深刻な健康障害に、人にも言えず、有効な治療も受けられないまま、苦しんでいる人が多いのは事実です。