県民健康管理調査検討委員会は「(推計が問診票を回収した45万4340人の2割余となり)全県的に1ミリシーベルト未満の県民が大半とみられる」、「従来の疫学調査を踏まえて放射線による健康影響があるとは考えにくい」との見解を示した。
また、この日の検討委で、福島医大は子どもを対象とする甲状腺検査について、二次検査の結果、1人の甲状腺がんが確認されたと報告した。福島医大は「甲状腺がんは(発生まで)最短4年」と述べ、放射線の影響を否定している。
福島県と福島県立医大は、どんな症状が出ても、放射線の影響ではない、福島第一原発事故の影響ではないと主張し続けるつもりのように見える。
福島県内では、かねて良心的な医師等が警告してきたとおり、深刻な疾病が顕在化してきている。しかし、ことごとく放射能の影響は否定されており、このような一方的な見方は、福島県外でも主張され、押し付けられることになるだろう。
県民健康管理調査検討委員会は「外部被曝は全県的に1ミリシーベルト未満の県民が大半とみられ、放射線による健康影響があるとは考えにくい」としているが、内部被曝についてはなんら触れていない。
私は、関東各地から報告される健康被害は、福島第一原発事故直後のプルーム襲来による内外の被曝が主原因であり、外部被曝だけを取り上げて「放射線による健康影響があるとは考えにくい」とするのは、一般の県民の誤解を招くし、「健康管理調査」の観点からは適切ではないと考える。
「甲状腺がんは(発生まで)最短4年」との指摘も大いに問題がある。どこの疫学調査からそのような知見が得られたのか示されていない。
福島県の県民健康管理調査は、症状が進むまで観察を続けることに主眼があるという点で「人体実験」のそしりを免れず、収集したデータをバイアスのかかった分析・解釈で処理し、放射線による健康影響を否定しようとする姿勢が見える点で、極めて意図的で、悪意に満ちたものと言わざるを得ない。
福島県で被爆者に対する注意深い、信頼できる医療が行われず、放射線による健康影響を否定する材料でしかないと見られる健康調査に力が注がれている非人道的な状況は、関東の住民にとっても決して他人事ではない。
子供の甲状腺がんの発症は、福島市内の事例と見られるが、関東一円でも初期の被曝によってほとんどの子供が同様なリスクを抱えており、発症が早いか遅いかだけの違いしかないと見られるからだ。
次のグラフは、福島県内の7つの地域の代表的都市の2011/3中の空間線量率を示す。郡山市については、途中で測定場所が変更になっており、二箇所のレベルが異なるので、後半(黄色)の測定場所の値と前半(桃色)の測定場所の値を比較し、平均で2.82倍の差があることから、前半の測定場所の値を2.82倍した値を水色の線で表示してある。3/15と3/16は、概ね10分ごとの測定値となっているため、この2日間は横軸の長さが他と異なっている。

縦軸は、マイクロシーベルト毎時。福島市の空間線量率の最高値はいわき市と同程度だが、ピークの後の低下が緩やかだ。次いで高いのは南相馬市て3/12の夜にピークをつけている。郡山市は、上の注のように修正後の数値では、ピークは15マイクロシーベルト毎時になる。
関東や東北で観測された数値と並べると次の図のようになる。郡山市は修正前。女川が20マイクロシーベルト毎時で南相馬と並ぶ。女川は石巻の東14km程度に位置するが、このデータは女川原発のもので、女川原発周辺はセシウムの沈着量が多い。
宮城県の隠蔽戦略で仙台市の3/12前後の空間線量率が入手できないが、米国防総省の推定によれば、石巻の甲状腺被曝量は仙台市の3分の1弱とされており、石巻が仙台と女川の間にあることを考えると、仙台のピーク時空間線量率は女川と同等、あるいはそれ以上になっていたのではないかと見られる。宮城県職員の相当数が、体調不良を訴えている点も、初期被曝の強さをうかがわせる。

このグラフから言えることは、茨城県の北部の都市を中心にピーク時空間線量率は修正前の郡山市や白河市の水準に近いところ、会津よりもはるかに高いところがあるということだ。
百里基地や小山市の推定甲状腺被曝量は、仙台市並みとされており、福島県下の相対的にピーク時空間線量率が低い地域に勝る初期被曝となっていた恐れが強い。
関東の他の地域でも、初期被曝によると見られる健康障害が既に多数報告されており、空間線量率のピーク値が福島市に比べて何分の一だから重大な疾病の恐れは少ないと受け止めることはできない。
今、福島県の住民に対して行われている県外での受診の妨害や甲状腺のう胞の経過観察という名での放置は、適切な医療を受ける権利を侵害するもので、許されないことだ。
関東の住民が他人事と思っていると、いつあなたが、あるいはあなたの家族がモルモットにされるか、分からない。関東の住民は、福島の患者の比較対照群として、論文を書く側にしてみれば価値が高い。
福島県と福島県立医大によって行われているこの世紀の悪行に対しては、一日も早く止めさせるようみんなで声をあげ、行動していかなければならない。福島の子供たちは、自分らを近い将来襲うであろう疾病の恐怖におののいているのに、適切な医療が受けられないと感じたら、どんなに深い絶望に陥るだろうか。
関東各地のピーク線量率は、次の図がより詳しい。
2011/3の関東地方プルーム往来推定チャート
田中龍作ジャーナル 2012年9月13日の記事から
甲状腺検査の結果、結節(しこり)が5ミリ以下、嚢胞(のうほう)が20ミリ以下の子供は、再検査を受けるのが2年後となる。このカテゴリーの子供たちは全体の43%を占める。親は気が気でない。一日も早く再検査を願うのが世の親である。
「2年後の再検査は遅い、もっと早くしてほしい」と詰め寄る母親に松井教授は逆質問したのである。「2年で早期発見できる。2年が遅いという根拠は何ですか?」と。開き直りとしか言いようがなかった。
母親は血相を変えて答えた。「普通の病院でポリープが見つかったら、2年後に来て下さい、とは言いませんよね。せめて3か月か半年後に診てもらえるようにして下さい」。