震災復興特別委のチェルノブイリ事故関連ウクライナ要人からのヒアリング: ずくなしの冷や水

2011年12月27日

震災復興特別委のチェルノブイリ事故関連ウクライナ要人からのヒアリング

2011/10、震災復興特別委のチェルノブイリ視察に参加した柿沢未途衆議院議員(みんなの党)がツイッターで綴った視察の模様がSAVE CHILDに掲載されている。

以下は、その記録からポイントを拾ったもの。

日本側:日本は内部被曝の暫定規制値という事で食物500Bq/kg、飲用物200Bq/kgという原則一律の基準だが。

プリステル氏(事故当時の非常事態省副大臣):不可解な値だ。これから見直されなければならない。同じ100Bq/kgでも大人のワインと乳児のミルクでは違う考慮が必要だ。

トロニコ氏(甲状腺医学の権威):甲状腺癌はウクライナ、ベラルーシにおいて深刻な問題。事故から4年後に増え出した。事故当時0-9歳、特に0-4歳 だった子どもに特異的。ウクライナ北部州における発症率は10倍に。人口の10%しかない汚染州が甲状腺癌手術6049症例の46%を占める。子どもの甲状腺癌、大人なら問題化しない1cmの腺腫があれば、3〜6ヵ月の間に転移を起こしてしまう可能性。取るべき処置は甲状腺の全摘手術。米国との共同研究で、事故当時の胎内被曝で甲状腺癌を発症した例がある。妊娠3ヵ月で胎児にヨウ素が取り込まれる。兆候を早期につかむため、超音波スクリーニングが必要。福島における処置は適切ではないか。現地の30万人の子ども達にモニタリングをしていると聞くので。(注1)

日本側:その他の遺伝子損傷による障害等の異常や病気の発症は?

ロマネンコ氏(事故当時のソ連邦ウクライナ共和国保健相、事故後に創設された放射線医学センター元所長):チェルノブイリ後の病気等の影響を事故と関連付けるのは難しい。その中で特に心理的、精神的問題を強調したい。政府が国民の不信を払拭する事で、精神疾患の発症率を下げられる
チェルノブイリ事故では、国民が政府を、医学者を信用しなかった。私の娘は医師であり医大の准教授であるが、そのような私の娘でさえ、『お父さん、健康に影響がないなんて、嘘を言わないで』と私に言ったのだ!

日本側:ではロマネンコ氏は、甲状腺以外は放射線の影響はないと考えているのか?

ロマネンコ氏:YESかNOかで言えない。遺伝的な病気(例えばダウン症)は、確かにウクライナで増えている。それは言える。しかしそれが放射線の影響かは判断できない。長期間かけて症例を見なければならない。(注2)

プリステル氏:社会的に安心を与えるために除染をするのかもしれないが、村人にとって大切なのは除染より食物による内部被曝をいかに防止するかだ。私達の経験から学んでほしい。(注3)

日本側:それは『除染には意味がない、効果がない』という事か?

プリステル氏:家の除染も必要だろうが、子どもは川で遊ぶ、山で遊ぶ。それを軍隊を出して全部は除染できない。だから立入禁止区域がある。原発近くで汚染度合の低い村があるとする。そこには住めるが、学校の窓から原発が見え、四方八方を鉄条網で囲まれる。そこに住まわせるのはモラルに反する。
私達は『5キュリー以下の汚染の土地では農業しても良い』と言った。しかし同じ汚染でも沼地とミネラル分ある土では(草を食べる)牛肉、牛乳の汚染は40倍も違う。一方、350km先の牛乳が汚染値を超えたりする。土質や草に非常に影響される。汚染だけで居住の判断はできない。
土地の汚染より人々への影響を考えるべき。単純な汚染度合で居住の可否を判断する私達の間違いを繰り返すべきでない。当初は30km圏内に大量の兵隊と巨額の費用を投じて除染したが、それはいわば無駄だった。(注4)
米国コロンビア大との共同研究で、事故当時0-14歳の子ども10万人を調査したところ、胃腸病と放射線の関係があると分かった。それは空間線量ではなく、食物の摂取に由来している。
情報を隠すのは最も良くない。ソ連時代はやはり秘密があった。5/1付のプラウダ(注5)に小さな記事が載っただけだった。それでも専門家は夜に集まって情報交換した。今、IAEAは機能を果たさず、ソ連時代でもないのに福島のデータは入ってこない。

注1:「Fukushima Voice」というブログの「ある医療従事者からの報告」という記事に、「今後も各市町村で実施される子供達の甲状腺検査(エコーによる)を行っているのは、血液検査しかしたことない医大の検査技師だとのこと。エコー検査も使ったこともない人が現在検査してます」とある。トロニコ氏は、過大評価している。

注2:ロマネンコ氏が「YESかNOかで言えない」と述べているのは、医学者として当然の結論保留だ。氏の経歴からして、科学的根拠なしにものを言えば、世界の原子力マフィアから総攻撃を受けることを百も承知だろう。

注3:プリステル氏は、日本の食物の汚染基準が緩すぎること、国際機関経由でも日本から直接でも情報が少なすぎることに繰り返し懸念を表明している。震災復興特別委の視察団は、ウクライナ要人からのヒアリング結果をきちんと理解したのだろうか。

注4:小出裕章氏が当初から一貫して除染は効果なしと述べていたのは、ウクライナの経験を知っていたからだ。ヒマワリなどの栽培による除染などここでも話題にもなっていない。日本政府は、国内の研究者が蓄積した知識を活用せず、誤った施策を講じて時間とカネを無駄にしている。

注5:チェルノブイリ事故は、1986年4月26日1時23分

注6:私は、上の記録を読んで夕食会に参加したウクライナ要人の黙示的な日本政府批判を感じ取った。
カナダ医師会ジャーナル(CMAJ 12/21)の記事に引用された『核戦争防止医学協会』の会長ティルマン・ラフは次のように言っている。
「25年前のチェルノブイリ事故時には、現在よりずっと技術的にも進歩しておらず、開かれた、民主的な状態ではなかったにもかかわらず、公衆衛生の観点から見ると現在の日本で行われているものよりもはるかに責任を持った対応だった。」
日本政府と日本の放射能関係の医学者たちは、世界の良心から厳しい批判の目が注がれている。視察に参加した議員たちは、誰も恥ずかしいと感じなかったのだろうか。

注7:上のヒアリングでは話題にならなかったようだが、避難について彼我の差を論じる際に、資本主義経済と社会主義経済の違いを等閑視していると思う。社会主義体制の下では、土地も建物も基本的に国有財産。住宅は狭く、家財も少ないから、強制移住で新規の土地に移動させても、住宅さえ確保すれば基本的に当局側の責任は果たされたことになる。
一方、資本主義体制の日本では、住民に土地と建物とを放棄させて移住させれば、1世帯当たり4,000万円なら100世帯で40億円、1,000世帯で400億円の補償を要する。福島県の世帯数は72万世帯弱。この1割の世帯に補償するだけで2兆8000億円もの費用がかかる。日本のような人口稠密な私有財産制の国で原発を運転するのは、もともと正気の沙汰ではない。
posted by ZUKUNASHI at 07:42| Comment(0) | 内部被曝防止
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