カナダ医師会ジャーナル(12/21)掲載のローレン・ヴォーゲル氏論説の要約: ずくなしの冷や水

2011年12月24日

カナダ医師会ジャーナル(12/21)掲載のローレン・ヴォーゲル氏論説の要約

「EX-SKF-JP」が、カナダ医師会ジャーナル(CMAJ 12/21)に掲載された、福島原発事故に関する日本政府の対応を厳しく批判したローレン・ヴォーゲル氏の論説を紹介している。

英日対訳も付いて親切だが、全体が少し長いので、日本訳の要約を掲載する。これが世界の善意の者の平均的な見方ではなかろうか。

「日本の震災が公衆衛生に及ぼした副次的影響」 ローレン・ヴォーゲル

「隠蔽の文化」と不十分な除染が相まって、今、日本人は「人倫にもとる」健康リスクにさらされている、と専門家らは言う。死の灰がより広い範囲を汚染しておりそこから人々を避難させるべきである、とする専門家もいる。

彼らはまた、国際的に承認された公衆の放射線被曝限度(1ミリシーベルト)に戻すよう日本政府に求め、「透明でタイムリーで包括的な情報の伝達が極度に欠如している」と酷評している。

しかし、福島原発の3つの溶けた炉心の温度は「冷温停止状態」を達成、放射性物質の漏洩も「制御されている」、と国際原子力機関(IAEA)は言う。これは、日本政府がまもなく原発周辺地域から避難した10万人以上の住民の一部の帰還を許すかもしれない、ということを意味する。

これ以上の爆発で放射能の大気中への大量拡散が起こる可能性は確かに減少している。しかし、原発が激しく損傷しており放射能が漏出していることには変わりはない、とティルマン・ラフは言う。ラフは『核戦争防止医学協会』の会長で、福島県を8月に訪れている。「現場の放射能汚染は大きな問題だ。余震は、今後何ヶ月も続くことが予想されていて、そのうちのいくつかは非常に大きく、既に不安定で弱った構造物に更にダメージを与える可能性もある。原発の地階には約12万トンの高度汚染水が溜まっており、相当量の海への漏出が起きている。」

国土の汚染の程度は更に不明だ、と言うのは『社会的責任を果たすための医師団』の役員の一人、イラ・ヘフランド。「人々がどれほどの被曝にさらされたのか、引き続いてどれくらいの被曝をしているのか、私たちには未だにはっきり分からないのです。現時点で得ている情報の大半は矛盾したもので、一方では政府が何も問題はない、と国民を安心させ、もう一方では市民が自分たちで放射線測定をして、政府が発表する数値より高い数値を計測している。」

日本政府は「問題は存在しないことにして」、一般公衆の年間被曝許容量を20ミリシーベルトに引き上げた。これは、国際基準の年間1ミリシーベルトよりはるかに高い値である、とグールドは付け加える。

放射線被曝最高許容量の「恣意的な引き上げ」は政府の「人倫にもとる」大失態だ、とラフは強く主張する。「一クラス30人の子供たちを年間20ミリシーベルトの放射線に5年間さらすと、ガンのリスクが増加して30人のうち1人が発症することになる。これは全く受け入れられない。過去数十年、自国民に対するこのように高いレベルの放射線リスクを平気で受け入れた政府は他にないだろう。」

1986年のチェルノブイリ原発の事故後、「明確な目標値が定められ、年間5ミリシーベルト以上被曝すると予想される人々全員を、有無を言わせず避難させた」、とラフは説明する。被曝レベルが1ミリから5ミリシーベルトの地域では、放射性物質を体内に取り込むリスクを少なくするため、地元で作った食物の消費禁止を含めた数々の方策がとられ、住民は移住するオプションを与えられた。被曝量が1ミリシーベルト以下の場所でも、監視が必要とされた。

日本政府がやったのは人々に福島の農作物を買うように勧めるキャンペーンだった、とラフは付け加える。「25年前のチェルノブイリ事故時には、現在よりずっと技術的にも進歩しておらず、開かれた、民主的な状態ではなかったにもかかわらず、公衆衛生の観点から見ると現在の日本で行われているものよりもはるかに責任を持った対応だった。

日本がチェルノブイリ事故時と同様の規制を掛けるなら、政府は約1800平方キロの地域を避難地域として、さらに追加で1万1100平方キロの地域で作られる食物に制限を掛けなくてはならなくなる、というのが、日本公衆衛生協会の多田羅浩三博士が11月にワシントンDCで開かれた米国公衆衛生協会で発表した汚染推定の結果である。

日本政府が実質的に主張しているのは、高い線量は「危険ではない」ということだ、とヘフランドは説明する。「しかし、事故以来、日本政府は平気で嘘をつき、できるだけのことをして人々の懸念を最小限に抑えることに腐心し、そのためには人々が詳しい情報に基づく判断を下すために必要な情報すら出さなかった、ということがはっきりした。おそらく今でも出していないだろう。」

「日本政府は、原発でメルトダウンが起きていたことを1、2日の内に知っていたが、数週間にわたって公表しなかった。それも、外部から圧力が掛かってようやく公表した」とヘフランドは付け加える。「健康に被害が出るようなことはない、と人々に言っている同じ時に、東京の住民を避難させなくてはいけないかもしれないと思っていたが実行するべく動くことはしなかった、と首相は今になって認めている。」

ラフも同様に、日本政府はファイルの管理を誤り、人々に誤った情報を出した、と批判する。その例としてラフが挙げるのは、安定ヨウ素剤が子供たちに配られ、効果的に作用した、という初期の報告。しかし、「実際にはヨウ素は(三春町を除き)誰にも与えられていなかったのだ。」

政府への不信から、地域の人々は自ら除染や放射線モニターの仕事を行い、今回の危機に対する日本政府の反応は「嘆かわしいほどに不十分」であり、市民の放射能ホットスポットの報告にも対応が遅い、とグールドは言う。「除染が行われた場所もあるが、一方で人々が汚染土を否応なしに山林や除染した町の周辺に捨てている、という報告もある。」

「場所によっては、汚染土が青いシートに覆われて山と積まれている。」

ヘフランドは、政府の援助があっても、除染には限りがあると言う。「取り除いたものをどうするのか? 表土を全部剥ぎ取るのか? どこまで取らなくてはいけないのか? 建物を洗浄したら、その洗浄した後の水はどうするのか?」

更に、政府は警戒地域以外で放射能汚染の高い地域から自主避難した人々に対する補償の条項を検討しなければならない、とラフは主張する。そのような補償なしには、多くの人々は留まる以外の選択肢がない、と言う。「現時点では、長期にわたる健康被害を最小限にするための一番大事な公衆衛生上の方策は、避難区域を広げることだ。」
posted by ZUKUNASHI at 18:16| Comment(0) | 原発事故健康被害
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