土壌と作物の吸収研究をする渡部敏裕・北海道大大学院助教(植物栄養学)のサイトに「植物のセシウム(Cs)とストロンチウム(Sr)集積に関する研究」と題する短い論文が掲載されている。
この論文は、今年の作物栽培の結果から得られたセシウム吸収に関する断片的な知見の裏づけになるといえそうだ。以下、論文のポイントを原文のまま抜き出す。太字は、ずくなし。
1 測定しているセシウムとストロンチウムは自然界に存在しているものであり、飛散している放射性同位体のセシウム、ストロンチウムと同じ動態を示すことは必ずしも意味していないことをご承知ください。
2 ストロンチウムは私たちが行なってきた様々な研究(異なる植物種・品種、異なる環境)で同族元素であるカルシウムと含有率の相関をとってみると、どの条件でも非常に高い正の相関を示します。これは、ストロンチウムの土壌中における動態、植物根の吸収、植物体内での移動がほとんどカルシウムと同じメカニズムで行われていることを示唆しています。
3 一方セシウムは同族元素であるカリウムやナトリウムとの正の相関はほとんどありません(どちらかといえば排他的関係)。
4 セシウムの場合、葉と種子ともにカリウム無施肥の処理区で高い値を示します。つまり逆に言えば、カリウム施肥を十分に行うことでセシウムの蓄積は抑制できる可能性があります。
5 一般にセシウムは葉と比べて種子における蓄積量は低いです。しかしカリウム無施肥のダイズでは種子の方が非常に多くのセシウムを集積しています。
6 圃場の土壌(+NPK区)を水抽出することで溶出される元素濃度と、硝酸分解で測定される元素濃度の比および酢酸アンモニウム抽出で溶出される元素濃度の比をそれぞれとってみました。硝酸分解では強く結合した元素も溶出し、酢酸アンモニウム抽出では交換態陽イオンが抽出されます。その結果をみると、やはりセシウムはいずれの場合も水抽出で溶出する元素の割合が低く、土壌と非常に強く吸着する性質が有るようです
7 この植物園での研究結果と以前に行った研究結果を合わせて解析すると、トクサ科、ウラボシ科、 タデ科、ヒルガオ科、アヤメ科に属する植物の葉でセシウム含有率が高い傾向が確認されています
8 私たちの研究でも特にイネ目、イネ科の植物が集積傾向が高いという結果は得られていません。
9 (農水省の)試験から得られたヒマワリの地上部への放射性セシウムの移行係数は0.00674であり、農水が先にまとめた野菜類の移行係数データ(レタス 0.0067、ハクサイ0.0027など)とほぼ同レベルでした。この程度の吸収力しかない場合、セシウム137の半減期である約30年たってもファイトレメディエーション(当該元素超集積植物に収奪させる技術)による低減効果は全体のわずか数%程度でしょう。
引用終わり。以下はずくなしのコメント。
a ストロンチウムを選択的に植物に吸収させることは難しそうだ。となると、植物による除染も無理、土壌中に含まれるストロンチウムの測定も難しいから、ストロンチウムを吸収した作物が出回り続ける。
防御の方法がないように思うが、ストロンチウムがセシウムなどの拡散状況と全く異なるはずはないから、やはりセシウムに強く汚染された地域の農作物を避けるしかない。
もう一つ、植物がストロンチウムとカルシウムをほとんど混同しているとするなら、動物でも同じだろう。「葉におけるカルシウム含有率とストロンチウム含有率が非常に高い正の相関を示」すのだから、人間がカルシウムの摂取を増やせば、ストロンチウムの摂取量を相対的に少なく抑えられる可能性はないのだろうか。シロウト考えではきっとあると思う。
10/15、ベラルーシー、ベルラド放射能安全研究所副所長ウラジーミル・バベンコ氏が子供を放射能から守る方策をまとめた冊子の日本語訳の出版を機に来日し、世界文化社主催で講演している。
質疑応答でバベンコ氏は、ストロンチウムはカルシウム不足の間隙をついて入り込み蓄積されると指摘し、卵の殻を細かく砕いてリンを含むグリーンピースやキャベツなどと一緒に食することが効果があるとしている。チェルノブイリの場合は、ストロンチウムは50kmより遠くには飛ばなかったようだし、貝からカルシウム粉末を入手することも難しいから鶏卵を使ったものだろう。苦労がしのばれる話だ。
日本では、ストロンチウムがどう飛んだか、未解明なため鶏卵を砕いて食することには抵抗があるだろう。汚染が少ないと見られる国の乳製品を食する道もあり、そっちが現実的かもしれない。
なお、 バベンコ氏は、衛生的な観点から卵を固ゆでになるまでよく煮沸し、細かく砕いた殻を1日2グラム摂取するとストロンチウムをブロックできると述べている。
b 土壌中のセシウムが土壌に強く吸着され、分離しないために根から吸収されにくいというのは、あちこちで指摘されている。それとこの論文にあるように、カリウムが十分にあるとセシウムよりもカリウムがより吸収されやすいと言うことも間違いないようだ。
このため、長年有機栽培を続けてきた圃場の作物は同じ地域の一般の圃場に比べて作物中のセシウム含有量が少ないと言う結果が説明できるだろう。
一般に、日本の農業は多肥料栽培だからカリウムが不足しがちと言う圃場は少ないはずで、このことが晩春から初夏にかけて植え付けられた作物のセシウム含有量が予想より低かったと言うことにつながるのではないか。
なお、今年の茶葉から基準値を超える放射性セシウムが検出されたことについて、渡部敏裕氏は、「恐らくこれは施肥との関連が大きいのではないかと思います。お茶栽培ではテアニンなどの旨味成分を高めるため、一般の作物と比べて相当多い量のアンモニア態窒素(主に硫安)を土壌に与えています」と述べている。
さて、土壌条件やセシウム濃度にもよるが、適切な肥培管理がなされれば、土壌中のセシウムが作物に移行しにくいと言うのは、大変な朗報だ。しかし、まったく吸収されないわけではなく、常に放射性物質含有量の高い作物に遭遇する危険性はなくならない。
セシウムは、いったん体内に入れば、筋肉よりも内臓に溜まり、機能不全を引き起こすと言う指摘もある。セシウムは、これから何十年もとにかく体内に取り込まない努力が必要だ。
バンダジェフスキー博士の「人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響」によると、「平均40-60Bq/kg のセシウムは、 心筋の微細な構造変化をもたらすことができ、 全細胞の10-40%が代謝不全となり、規則的収縮ができなくなる」との記述もあり、比較的少ない量でも障害が出てくることもあるようなので、セシウムの体内蓄積は怖い。
バベンコ氏は、子供の鼻血は、放射性物質が体内に入ったことによる高血圧の影響の可能性があるとしている。体内放射能が体重1kg当り35〜70Bqの子供のほとんどに高血圧が見られ、70〜135Bqの子供の多くに心臓循環器系の異常が認められたと言う。この指摘は、バンダジェフスキー博士の指摘と同様だ。
バベンコ氏は、ベルラド研究所ではペクチンはセシウム排出の効果があることを実証しているという。ペクチンは、特別なものでなくてリンゴとかペクチンを多く含むものは何でも効果があるようだ。ベラルーシではビートのペクチンから製造したサプリメントがあると言う。あんずや桃などの果肉入りジュースもペクチンが多く、良いとしている。
同氏は、豆類は栽培面では土壌中のセシウムを吸収しやすいが、一方で体内では放射性物質を吸着してくれるという。国内栽培の豆類ではなく、輸入豆類を使った豆製品、モヤシ、豆腐は有益だ。
バベンコ氏の指摘の中で、体内のセシウムが高血圧を招くという点は注目される。中高年は、細胞分裂が活発でないから白血病などのがんの発症の恐れが少なく、放射能に対する感受性が低いとされているが、高血圧を招くのなら話はまるで違う。中高年は脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まると心得ておこう。
2011年10月22日
作物のセシウム吸収の条件は多様
posted by ZUKUNASHI at 13:12| Comment(0)
| 内部被曝防止
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