これから健康障害は本格化します。この推計はいろいろな前提を置いて行ったものですが、筆者は意味のある結果が出たと考えています。読者がご家族の甲状腺障害のリスクを頭の隅に置き、機会があれば検査などを積極的に受けられることをお勧めします。
基本的な推計の考え方は、ある特定の地点で継続的に空間線量率を測定した記録があれば、その地点に沈着した放射性物質の核種構成を大まかながら推定できるという発見から始まっています。主要核種は、セシウム134、セシウム137、ヨウ素131、テルル129mです。
次のグラフにあるようにそれぞれ半減期が異なりますから、30日後から80日後辺り、そして200日後から300日後辺りの空間線量率の変化をターゲットにして、空間線量率の変化曲線を合成すると、実測値に基づくものとほぼ同じ曲線が得られます。

次は水戸市のMPの観測値について変化曲線を合成したものです。青が実測値、赤が合成値でぴったり重なっています。

代表的な箇所について、このような作業を行い、その結果を次の表にまとめました。セシウム134と137は原則として1と置いています。ですからヨウ素が4ならばヨウ素の出す放射線がセシウム137の出す放射線に比べて4倍あったことを示します。
この表の黄色のハッチの部分は、セシウムに比してヨウ素とテルルが相対的に多いところを示します。テルル129mは、β崩壊(γ線あり)してヨウ素129(半減期1600万年)になりますからヨウ素131と同じく甲状腺に悪い影響を与えるとされています。

いわき市の欄を見るとヨウ素131が11となっており。異様に高くなっていますが、いわき市のヨウ素濃度は特に高かったことが知られており、その事実がここにも数値で表れています。なお、HPの参考記事に掲げましたが、ヨウ素131を11としても、3/21の推計値は実測値を下回っており、3/21前に到来したプルームの影響が出ています。
また、山形市でセシウム137が1.8と異例な値になっていますが、これは山形市では3/16と3/20の2回ブルームが襲来しており、初回のプルームがもたらした放射性物質を3/20の推計開始時点で勘案しないといけないためです。
表の中で、2011/4/1の空間線量率のうちカッコ内は合成曲線から読み取った推定値です。大和市については、市内の中学校の測定値の平均値を用いましたが、測定開始が2011/7/8からと遅く、合成曲線の信頼性に疑問がありますので空間線量率の推定値は記入していません。古河市は古河第六小学校、北茨城市は中郷第一小学校、新松戸は新松戸西小学校のデータを使っています。
次のグラフは、上の表を視覚化したに過ぎませんが、ベージュと薄い空色の棒が高いところは、セシウムに比べてヨウ素とテルルの放射線が多いことを示します。

もちろんセシウムの沈着量が少なければ、ヨウ素の比がいくら高くてもヨウ素の放射線は多くありません。空間線量率の値は全体を含めた放射線の多寡を見る上で参考になりますが、MPの観測値と可搬型の測定器で測定した値は比較が困難です。
ここで筆者が指摘したいのは、いわき市は言うに及ばず、関東の北部、そして茨城県南部と千葉県北西部は、甲状腺の被曝量が多い可能性があると言うことです。信頼性に疑問がありますが、ひょっとしたら神奈川県のヨウ素の沈着量も多く、これが初期の健康被害に影響したのかも知れません。
ヨウ素131は半減期8日ですからほぼなくなるまで80日、テルル129mは半減期30日ですから300日程度は影響があったと見られます。再浮遊に加え、食品経由でも体内取込が続いた可能性を否定できません。
次は、以前から掲げている米国国防総省による被曝量推定値です。仙台と並んで小山、百里の甲状腺被曝量推定値が大きくなっています。それに比べて東京、厚木は半分程度、山形も厚木と同程度となっています。

米国国防総省による推定値がどのようなデータをもとにどんな手法で計算されたか分かりませんが、上の表と整合性を持ちます。小山は宇都宮と古河の中間に位置し、百里は水戸市の南です。
東葛飾の自治体で甲状腺の検査を行ったところもあり、その結果が公表されていますが、筆者は検査の結果に疑問を有しています。現場の医師からは、東京のほとんどの子どもにのう胞などが見られるとの指摘があるのに、東葛飾でそれより障害が少ないとはとても思えません。
米国国防総省の被曝量推定値は、重く受け止めるべきです。土壌調査も他のデータと突合せ、検討した結果では他にない貴重な資料であることが判明しました。
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